光を失いし空 塗りつぶされた空 雲を裂く 闇の主たる月
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撮影者:浅葱 光様(風車) |
被写体: 「奏愛」より、軌隆一族の若頭 軌隆楓 「平成陰陽記伝」より、大神こと、木狼 |
*月光花*
明るい夜だった。 黒で塗りつぶされているはずの空が今宵は淡い光を宿している。天上に、輝きを放つ天体が、静かに佇んでいた。 小さく謳う虫たちの響き。風にそよぐ木々の囁き。 いつなく賑やかな夜に、足音もなく歩み人影が一つ。 「冗談じゃねぇ、なんで俺様が」 悪態をつきながら、山の中を歩くのは、白髪の人物だった。 白髪に、顔に描かれた赤の隈取。鋭さを秘めた眼は瞳孔が縦に割れている。 人ならず、神に数えられる存在。それが国津神の大神こと、木狼だ。 山といっても、本来、彼が縄張りにしている「眠りの塚」のある山ではない。 縄張りから離れた地に、木狼はやってきていた。 「俺様がなんで、こんなことを」 鋭い爪が備わる手に握られていたのは、銀色の物体。「カメラ」という名称のそれは、レンズに映ったものを留めておく事ができるものらしい。 それを使って記念撮影をするために、木狼を縄張りを離れてこんなところまできていた。当然、木狼が自分から喜んでこんなことをするはずはない。 写真撮影なんて引き受ける理由も謂れもない。誰かに従うなんて真っ平ごめんだった。だが――拒否したいのは山々でもそうすることができなかった。
『頑張ろうね、もくろー』
満面の笑みで嬉しそうに言った人の子。己にとって唯一例外である人の子。 その笑顔を前に、「断る」とは言えなかった。その笑顔が曇るところだけは見たくはない。 「さっさと撮って、さっさと終わらせてやる」 そのためには、誰でもいいから、一緒に撮ってくれるものを探さなければならないのだが、木狼がいるのは山の中。当然、人っ子一人見当たらない。 人間嫌いな木狼がわざわざ人の町などに赴くはずもなく、結果として、誰もいないところを歩くことになっている。 木狼とて、その矛盾には気がついてはいるが、嫌いな人間との接触はできるだけ避けたい。 「くそっ、やっぱ人里の方にいかねぇと駄目か」 無駄に時間ばかり経過している。いい加減、行動に出る頃だろう。木狼は腹をくくることにしたが、 「……んっ?」 不意に顔をあげて、虚空を見つめる。見開かれた瞳が細められる。 「なんつー、運が良い」 口元を吊り上げる。一拍のあと、木狼はそこから姿を消した。
*
軌隆楓は、山の中にいた。濃い木々が空を覆いつくし、覗く枝の間から、月光が零れ落ちてくる。周囲を見渡し、楓は息をついた。 「迷った、な」 再度、息を零し、困ったように周囲を見渡した。
然る方の別邸の建築を依頼され、土地の下見に来たのは昨日のことだ。一通り、調査を終え、明日には一度、屋敷に戻り、打ち合わせを行うことになっている。 「今宵は月光花が見物でしょうね」 身体を休めているところで、宿場の主人が空を見上げて呟いた。 聞き逃しても良かったのだが、聞き覚えのないその単語が興味を惹いた。 「月光花?」 「ああ、はい。今夜は満月でしょう? 山の中腹に、満月の夜にだけ咲く花が群生しておりまして、一斉に咲く様は、それはそれは神秘的で美しいのです」 「満月の夜に?」 「ええ、とても珍しい花でしてね。昔はこの辺りにも咲いていたんですが、今では山まで入らないと見られなくなりましてね」 昔を懐かしむように、宿場の主人は呟いた。
月光花――満月の夜だけに咲く花。 今夜がその満月であるのは何かの縁かもしれない。 そう思った楓は、一人山道へと入って行った。 月が照らしてくれるおかげで、灯りはいらない。慎重な足取りで山道を登っていく。 宿の主人の話では、山道から外れずに行けば、着くらしいのだが。 どこで道を間違えたのか分からない。気がつけば、山道は獣道に変わり、背後を振り返っても、左右を眺めても、同じ様な景色。 山の中、迷ったことに気がつくのにそう時間は掛からなかった。
「さて、どうするか」 見知らぬ山の中。歩き回ればさらに迷う可能性もある。日が昇るまでじっとしているべきなのかもしれないが。 木々の間から見える満月は少し傾き始めている。月が落ちれば、花は花弁を閉じてしまうだろう。 暫し、楓は考え込む。そのときだった。 「おいっ!」 唐突に掛けられた声に、はっとして振り返る。音も立てずに姿を現したのは木狼だった。
*
枝の間を駆けていた木狼は、獣道の途中で立ち尽くす男を発見した。 音もなく、地面に降り立ち、「おいっ!」と呼びかける。 男は驚いたように振り返った。 「俺様と、写真を撮れ」 怖がられて逃げられると困ると判断した木狼は、相手が唖然としている間に詰め寄る。そして、なにも説明しないまま、カメラを押し付けた。 「えっ? あっ……」 「さっさと、撮れ」 生憎、木狼は使い方が分からない。そんな木狼のために親切にも手書きの説明書が用意されていた。 木狼はそれも楓に押し付ける。 強引な言動に驚きながらも、言われるがまま、カメラを動かす。 「ほれ、笑え」 「……ああ」 フラッシュが瞬く。 「これで、とりあえずは大丈夫だな」 木狼は楓からカメラと説明書を返してもらうと安堵したように呟いた。 「用はこれだけだ。邪魔して悪かったな」 「……あの」 去ろうとした背を楓は引き止める。 「月光花って、どこに咲いているか知っていますか?」 麓まで降りる道を聞けばいいのに、楓が尋ねたのは花の群生する場所だった。 木狼は目を瞬かせた。 「花なら、あっちの方向にあったと思うが」 「そうですか、ありがとうございます」 深々と頭を下げて、楓は示された方角へと歩みだす。木狼は黙ってその背を見送った。 「変なやつ」 呟きは木々の間に飲まれる。木狼は手元のカメラに視線を落とした。 「なにはともあれ、これで文句はないだろう」 落とさないようにカメラを掴みなおし、木狼もまたその場から姿を消した。
*
柔らかな風が甘い匂いを運んでくる。 山の中の開けた空間。天から降り注ぐ夜の灯火。その光に照らされて、淡い色の花弁を広げるのは、数え切れないほどの花々だった。 我先にと月の光を受け入れようとするように、花びらを広げている。 「これが月光花」 咲き乱れる花の一輪を摘み取る。 山の中にひっそりと、人目を避けて咲く花。誰に見られることもなく、光を浴びて、甘い匂いを放つ花。 それはまるで――。 「戻らないとな」 手折った花を手の平で包む。 ここから、山道を下れば宿場まで戻れるはずだ。 「早く戻らないと」 きっと、帰りを待っているから。
『お帰りなさいませ』
いつものように出迎える笑顔を想って、甘い香りに身をくぐらせて。 楓はひっそりと、笑みを零した。
月の下、誰に誇るわけでもなく。誰に求められるわけでもなく、ただひっそりと花弁を広げる月光花。 それはまるで、優しい貴方のよう――。
****(文:久渚遊衣) 微妙に意味不明な感じになってしまいましたが(汗)少しでも楓さんの雰囲気が出てればいいなぁと思います。 |
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撮影者:鳳蝶様(鳳蝶の森) |
被写体: 「鏡の国のアレとソレ」より、リュシーダサンイ 「平成陰陽記伝」より、大神こと、木狼 |
*月下美人*
『たっく、どこいきやがったんだ』 ぼやきながら、深い森の中を歩く。その視線は鋭く虚空を見つめ、見えないものを探り続ける。 国津神の大神。或いは木狼と称されるその神は木々の間を跳ねるようにして進む。 彼は周囲の気配を探り、目的の人物を見つけ出そうとするが、周囲にそれらしき気配は全くない。 大神が探しているのは、「符宮葛葉」という人間だった。葛葉は大神の真名を知る唯一の存在であり、大神の憎悪の対象である人間でありながら、その例外たる人物である。 『まさか、迷子になってるんじゃないだろうな』 葛葉と別れたのは暫し前の話だ。記念撮影をしてくるという今回の企画。一緒に行動しても良かったのだが、勢い勇んだ葛葉はさっさと一人で出かけてしまった。 後を追ってみたものの、完全に気配を見失ってしまっている。 葛葉は、十分に大人といえる年齢でありながら、どうにも幼い部分がある。一人にしておくのは心配だった。もちろん、葛葉はただの人間ではない。陰陽師としての素質、才は大神が舌を巻くほどである。 その身に何かが起こることは思っていないが、迷子になって帰れなくなっているのかもしれない。 大神はそれを心配して葛葉を探していた。
星を掻き消す眩い光、見上げれば丸い月が地上に光を落としている。 大神は足を止めた。 『月下美人か』 視線の先、岩場の影に群生している大きな白い花。 月明かりの下、わずか数時間しか咲かないと言われている花――月下美人だ。 大神の視線など物ともせず、花は静かに咲き乱れている。 『葛葉が喜びそうだな』 珍しいものには人並み以上の関心を見せる葛葉だ。持っていってやったらきっと喜ぶだろう。 そう思って大神はその一輪を優しく手折った。甘い香りが鼻先を掠める。 花が枯れる前に葛葉を見つけられるといいのだが。早いとこ、見つけようと大神は決意を新たにする。 そのとき――ふっと、感じとった気配に大神は顔を上げた。 それは一拍の間に、大神の背後に回りこむ。そして、 「りゃー」 のんびりとした叫びとは裏腹に、弾丸のように突撃してきたそれ。身体を捻るように、反射的に躱すことができたのは、大神だからといえた。人間だったら何が起きたか理解する間もなかっただろう。 大神はその場から跳び離れ、奇襲してきたものを睨みつけた。 『魔王っ! いきなり何しやがる』 向けられた視線の先。佇んでいたのは、幼子。真紅と金を纏う存在。 それが、凍えながら燃える炎、有翼の赤き月と称される、この世界の半分を包む闇の王――魔王であることを、大神は知っていた。正確には、旧知というべきなのかもしれない。 「にゃはっは。大神ぃ、久しいぞぉ」 恐ろしくも整った顔に華やかな笑顔が浮かぶ。大神はげんなりしたように肩を落とした。 『久しいも、なにもこの間あったばかりだろうが』 「そうだったかぁ?」 その「この間」が百年以上前であることは、問題にはならない。長い時間を生きる彼らにとって、百年の単位は遠いものではないからだ。 「大神ぃ、こんなところで何してるんだ? 遊びかぁ?」 『遊びじゃねぇよ……おい、魔王』 大神は真紅の幼子の顔を覗きこんだ。 『葛葉見なかったか?』 「葛葉っていうと、大神が大事ぃに、大事ぃに、している人の子か?」 『別に大事になんかしてねぇ』 「照れてるぅ?」 『照れるか!』 「なんだ、つまらない」 頬を膨らませて、照れないことを責めるが、大神はそれをあえて無視した。一々反応を返していたら身がもたない。 『それで、葛葉を見てないか』 辛抱強く、もう一度尋ねる。すると、 「見た気もしなくもなくないかもしれなくもないのだけれどもなくないかもぉ」 『…………』 「大神ぃ、暴力反対ぃ」 拳を震わす大神に、わざとらしく怯える。 無駄な時間を過ごすだけだと判断した大神は、幼子に背を向ける。 「大神ぃ」 追いかけてくる声。大神はそれに応えず、その場を去ろうとしたが、 「あの人の子は、変わらないか?」 ぴたり、と足を止めた。その声はさきほどのふざけたものとは全く違っていた。 「あの人の子は、穢れを知らぬままか?」 大神は、ゆっくりと振り返る。金の双眸が鋭く幼子を――魔王を捉える。魔王もまた、紅玉の黄金の目で、いにしえの神を見据える。 大神と魔王が、「この間」あったのは百幾年前だ。そのとき、魔王は言った。
人の子は変わる。 人の子は裏切る。 人間は弱い生き物だから、周囲の影響を受けやすい。 人間は強い生き物だから、周囲の環境を受け入れる。 変わることが間違いであるとは思わない。変わり続けることができたからこそ、人間はここまでの繁栄を望めたのだ。それが結果的に、変わらないものたちを裏切る結果になっても、そういう性質である人間を責めることはできない。 責める事はできないが、憎む事はできる。大神の胸の内にあるものは、そういうものだ。
『葛葉は、変わった』 長い沈黙のあと、大神は呟いた。 魔王の瞳が細められる。 『……あいつは、俺様を裏切った』 絶対に葛葉だけは裏切らないと、己の味方であり続けると信じていたのに。誰よりも唯一であると信じてたのに。符宮葛葉は、大神を裏切り、大神に陰陽師としての力を向けた。 だけどそれは――。 『俺様も葛葉を裏切ったのかもしれない』 大神にとって、葛葉が唯一の例外であったように、葛葉にとっても大神は唯一だったのかもしれない。 村人からは冷たい仕打ちを受け、幼い妹を養う日々。式神や物の怪たちが手を貸してくれたからこそ、成立していたあの暮らし。 妹以外で、まともな話し相手になりえたのは、大神だけだった。 『変わったかもしれないが、それが全てじゃねぇ』 変わったものがあった。変わらないものがあった。 少なくとも、葛葉は今も大神を恐れない。揺ぎ無い眼差しを逸らそうとはしない。 「ふーん」 魔王は口元に笑みを浮かべた。 「大神ぃ。大神ぃも変わったぞ」 『俺様は神だぞ。そんな簡単に変わるわけが――』 「大神が変わるのは寂しいぞ。でも」 言いかけて、魔王は口を閉ざす。大神はその先を促そうとしたが、 「つまるところ、大神ぃは、あの人の子が大好きってことでぇ」 『なっ! 誰が!』 「オレも大神好きだから嫉妬するぅ」 『ふざけるのも大概にしろ』 「いやーん、マジなのにぃ、大神のいけずぅ」 思わず怒鳴り返した大神に、跳ねるように魔王は近付く。そして、 「大神ぃ、もらうぞ」 『おいっ!』 大神の手から奪ったのは、月下美人。艶やかな白い花が、魔王の手の内に収まる。 魔王はそれを、自らの頭に飾りつけた。 「綺麗だろう?」 屈託なく笑って言うから、奪い返そうという気がなくなって、大神は諦めたように息を吐いた。 『欲しいなら、そこに咲いているだろうが』 岩場の影に群生する白い花。今なら、いくらでも摘み取れるだろうに。 「大神のだから良いのだ」 大神がわざわざ手折ったものだから意味があるのだと。 『勝手にしろ』 大神は視線を魔王から逸らす。 月下美人で思い出したが――こんなところで油を売っている場合ではなかった。 早いところ、葛葉を探さなければ。 背を向け、今度こそ、その場を離れようとした大神に、魔王はわざとらしく手を打った。 「大神ぃ。そういえば、あっちの方向で、あの人の子が同じところをぐるぐる回ってたぞぉ」 『……もっと早く言え!』 言うや否や、大神は魔王が指で示した方向の木々の中に姿を消す。おそらく、葛葉は迷子になって同じ場所を歩き回っているであろう。 別れの言葉を告げずに、告げることをも忘れて去っていったその背を見送った魔王は、大きく伸びをした。 「オレも帰ろうか、ケイ待ってるだろうしー」 頭に揺れる月下美人。指先で触れれば揺れる花びら。 きっと彼も珍しい花に喜んでくれるはずだから。
****(文:久渚遊衣) 以前いただいた、コラボ作の延長っぽい話です。意味分からん感じにしあがりましたが、リュー難しいです。そして、出てきてないはずの葛葉が相当でしゃばっている有様;リュー難しかったのだよぉ〜; 申し訳ない(汗) |
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撮影者:久渚遊衣(白黒曲線) |
被写体: 「イグノアーチル参加キャラ」より、元死神 レヴィ 「平成陰陽記伝」より、符宮葛葉 |
まあるい天上の盆が輝く夜に、魂を携えた黄泉の死者は参らん。
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